韓国歴史ドラマを観ていると、王妃や側室、女官たちが集う「女性たちだけの世界」がたびたび描かれます。
この世界には独特のルールや序列があり、それが人間関係や物語の鍵となることもしばしば。
この記事では、朝鮮王朝における女性たちの制度と身分、「内命婦(ネミョンブ)」という組織を中心に解説していきます。
内命婦(내명부/ネミョンブ)とは?
「内命婦」は、朝鮮王朝の宮中に仕える女性たちの総称・組織名です。
王の正室(=王妃)や側室(嬪・淑媛など)、さらには尚宮(サングン)や女官(宮女)など、すべての女性官職が含まれます。
「内(ネ)」=王の生活空間
朝鮮王朝では、王の私的な生活空間を「内(ネ)」と呼び、政治や儀式の場である「外(ウェ)」と区別しました。
そのため、王に近い女性たちは「内」に属する者たち=内命婦と呼ばれたのです。
正室と側室の違い
正室:王妃(ワンビ)
- 王の正式な妻であり、唯一の正室
- 宮中では女性たちのトップ
- 国母(クンモ)として国家儀礼にも参加
- 王妃に選ばれる女性は両班(ヤンバン)出身の良家の娘が多い
登場ドラマ例:
『トンイ』の仁顕王后(イニョンワンフ)、『赤い袖先』の宣靖王后(ソンジョンワンフ)など
側室:嬪(ピン)、淑媛(スグォン)など
- 王の「次位の妻」たちで、数人〜十数人が存在
- 子ども(王子や姫)を産むと、位階が上がることも
- 出自は比較的幅広く、中人(チュンイン)や庶民出身の場合も
登場ドラマ例:
『トンイ』の淑嬪崔氏(スクピン・チェシ)、『チャングムの誓い』の敬嬪(キョンビン)など
側室の序列と称号のしくみ
側室にはそれぞれ品階(ヒンゲ)があり、位が決まっていました。
これは女官にも共通する「品階制(正一品〜従九品)」に基づいています。
位階 | 称号 | 備考 |
---|---|---|
正一品 | 嬪(ピン) | 最高位の側室、内命婦の中でも重鎮 |
従一品 | 貴人(キイン) | 王の寵愛を受けた高位の側室 |
正二品 | 昭儀(ソウィ) | 側室の中堅、出番が多い |
従二品 | 淑儀(スギ) | 側室としての位は中程度 |
正三品 | 昭容(ソヨン) | 若手や新人に多い |
従三品 | 淑媛(スグォン) | ドラマでよく見る称号 |
※その下にも続きがありますが、ドラマに多く登場するのは上記のあたり。

女官(尚宮・宮女)の世界
王妃や側室たちの下には、日々の実務を担う女性たちが存在しました。
宮女(クンニョ)
- 最下級の女官。雑用や身の回りの世話を担当。
- 幼い頃に宮中に入り、昇進試験などで上を目指す。
- 字が読めることも条件。
ドラマ例:
『チャングムの誓い』の序盤に登場する宮女たち。
尚宮(サングン)
- 宮女の上位。一定の経験や試験により昇進。
- 各部署の“責任者”として仕切る存在。
- 中には権力を握る者も。
尚宮の主な称号の一部です!
- 保姆尚宮(보모상궁/ポモサングン):王子や王女のお世話係。
- 至密尚宮(지밀상궁/チミルサングン):王様などの側近。王室の秘書的役割。
- 侍女尚宮(시녀상궁/シニョサングン):宮廷内の本や文書を管理。
- 提調尚宮(제조상궁/チェジョサングン):宮廷内で起きることすべてにおいての最高責任者。
- 副提調尚宮(부제조상궁/ブチュジョサングン):提調尚宮の補佐。副女官長。
ドラマ例:
『トンイ』のチョン尚宮・ポン尚宮・ユ尚宮、『赤い袖先』のソ尚宮・パク尚宮など。
代表的な部署と役職
内命婦には、王や王妃、側室の身の回りだけでなく、宮中の多岐にわたる業務を担う部署が存在しました。
部署名 | 主な役割 |
---|---|
水刺間(수라간/スラッカン) | 王様・王族・王室関係者・外国からの謁見客などの料理を作る部署 |
司饗院(사옹원/サオンゥオン) | 食材や物品の管理をする部署 |
至密房(지밀방/チミルバン) | 王・王妃の身辺の世話 |
貞嬪房(정빈방/チョンビンバン) | 側室の世話と記録管理 |
掌楽院(장악원/チャンアグォン) | 宮中の音楽や儀式 |
尚衣院(상의원/サンウィウォン) | 衣装・織物の管理 |
こうした部署の中でも特に有能な者が、尚宮や正五品以上の女官として昇進していきました。
ドラマで見る「内命婦の世界」
韓国歴史ドラマでは、こうした内命婦の制度が人間関係の衝突や陰謀劇の背景として描かれます。
- 王妃 vs 嬪(側室)の対立
- 側室同士の序列争い
- 尚宮の出世と権力
- 王子を産んだ者の影響力拡大
例えば『トンイ』では、淑嬪チェ氏(トンイ)が身分の低い宮女から嬪に昇格していく過程で、階級の壁や嫉妬、陰謀に立ち向かっていく姿が描かれます。
まとめ:制度を知るとドラマがもっと面白くなる
朝鮮王朝の女性制度「内命婦」は、単なる背景設定ではなく、
物語の鍵となる要素が詰まった世界です。
それぞれの女性がどのような立場にいたのかを知っていると、
ドラマを観ていて「なぜこの人はこんなに強気なのか?」
「この争いはどうして起きたのか?」といった疑問がクリアになり、
より深く物語を楽しめるようになります。
今後は、この記事を起点に「王妃別の人物解説」や「女官の出世ルート」、「特定の側室の人生」なども深掘りしていきますので、ぜひチェックしてみてください。